法を意識することを根付かせるために

帖佐直美 様
流山市役所 政策法務室
帖佐直美 様

私が所属する政策法務室では、職員からの法律相談を受けています。その相談をとおして、憲法や民法といった基本法の知識を高めることの重要性や、法律に立ち返って考えることを習慣づける必要性があると感じました。所属する課に直結する法律に詳しい職員は多いので、こういった知識や習慣を身につけることで、より応用が利くようになると考えたためです。現在の流山市役所の取り組みを紹介します。

(出典:流山市ホームページより)
~どのような研修制度を行っていますか?~
公務員試験のために勉強した法律の知識をムダにせず、実務に活かせるようになってもらうために、入庁後間もない若手職員向けの研修を計画的に行い、ステップアップをはかれるよう研修プログラムを組んでいます。
講義だけでなくグループワークを行うことで、自分の業務と法律を結び付けて考えるきっかけになればと思っています。
1 入所時 新規採用職員研修(2日)
入所6か月 新規採用職員フォローアップ研修(1日)
初級研修(1.5日~2日)
入所1年目
2 基礎法務研修(12回程度/年) 入所2年目(2級に昇格して1年目の者対象)
3 政策法務研修 基礎編(5回程度/年) 入所2年目(2級に昇格して2年目の者対象)
4 政策法務研修 発展編(6回程度/年) 主に3級の者対象
5 政策法務主任研修(6回程度/年) 政策法務主任対象
6 全体研修(2回程度/年) 全職員対象
※2級:主事  3級:主任主事

上記2の「基礎法務研修」では、憲法・民法・刑法(罪刑法定主義のみ)・行政法をテーマに研修を行います。外部から招いた研修講師には、これらの基本法と実務との結び付きを意識した研修をお願いしています。

上記3の「政策法務研修 基礎編」では、法令の読み方のポイントや法令用語について学びます。グループワークでは、実際の条例の構造や工夫している点について分析し、検討結果をプレゼンテーションしてもらいます。「読み方のポイント」を学ぶことで、「書き方のポイント」を自然と理解し、ゆくゆくは条例づくりができる職員になるための下地になればと思います。
~どのように自治体法務検定を活用していますか?~
研修を受講するだけでは忘れてしまうこともあるので、学んだことの定着のため、復習用の教材として「基礎法務研修」及び「政策法務研修 基礎編」受講者全員に「自治体法務検定公式テキスト」を配布し、1月に団体受検を実施しています。
検定試験があることで、自ら学ぶ姿勢が身につくきっかけになりますし、目に見える点数という形で評価されるのは、職員にとって励みにもなるのではないかと考えています。

受検する職員には、点数がとれなかったとしても、人事評価に影響しないことを伝えています。ただ、頑張って良い成績をとれたら、そのことはみんなに知ってもらいたいので、ゴールドクラス以上を取得した職員には、政策法務室長名で表彰状を作成し、所属長から渡してもらいます。さらに、プラチナクラスを取得した職員には、自治体法務検定委員会から送付された表彰状を市長から職員に渡しています。こういった工夫が、職員にとってのモチベージョンアップに少しでもつながっていたらうれしいです。

また、受検して、結果として満足がいく点が取れなかった職員から、さらに高得点を目指すためにもう一度受検したいという前向きな要望も多かったことから、昨年度から再チャレンジ枠も設けることとしました。
~流山市役所独自の取り組みについて教えてください~
流山市独自の取り組みとして、各課に「政策法務主任」を選任しています。「基礎法務研修」と「政策法務研修 基礎編」を受講した10年目以下の若手を中心に担ってもらっています。上記5の「政策法務主任研修」はこちらの職員を対象としています。
 役割としては、行政リーガル・ドック事業(※)の実施と、法的相談があった場合に課の窓口となることです。
 以前は、各課からの相談は「どうしたらいいか?」という相談が多かったのですが、最近は、課として色々と調べた結果を踏まえて相談に来ることが増えてきました。

研修を受けた効果をどうみるか、というのはなかなか難しいですが、自ら調べ、意見をもって相談に来ることが増えたというのは、法を意識した仕事が根付いてきた証なのではと感じています。
また、入庁のタイミングによって研修を受けられなかった職員から、自分も研修を受けたいといった要望をいただくこともあり、評判は上々なのではないかと考えています。

※行政リーガル・ドック
行政リーガル・ドック事業とは、人が人間ドックに入って健康状態をチェックして病気を予防するように、市が行う事務をドックに入れて、外部の有識者であるアドバイザーが法的検討を加え、その結果を組織内にフィードバックすることにより、事務の適法性を確保しようとするものです。
日常の事務を法適合性という観点から見つめ直してみることで、基礎的な知識の定着を図ることができるとともに、事業執行の適正化にもつながるものです。
~自治体法務検定に期待することは?~
あれだけの内容が1冊にまとまったテキストは他にないと思います。職員から、法務を学習したいけど何かお勧めがないかと聞かれたら、自治体法務検定の公式テキストを勧めています。
あえて言うならば、試験の難易度はもう少し下げてもいいのではと思います。運転免許証を取得する際の試験のように、自治体職員として最低限の法務知識が身についているかどうかを測るものになればいいかなと思いますが、どこを最低ラインにするかは自治体によって異なるかと思います。また、一つでも上のランクを目指すという職員にとっては、今の難易度もモチベーション向上につながっていると思います。

(取材日:令和元年6月6日)